はじめに

物語  

 清らかな汚れのない自然の中で、生き物たちは生まれ育ち、生活する。人間もその生き物のひとつだ。だが、なぜ、この清らかな自然を、人は心なく汚すようになったのか。
 清らかな水に育ち、可憐な明かりを灯すホタル達は、私達が子供だった頃は、初夏の夏田畑や小川や森で光を放ち、群れ飛び、私達の心の安らぎと慰めを与えてくれた。
 蛍の光 窓の雪 文読む月日 重ねつつ・・・・」そう歌いながら学び、出会いと別れの節目を飾ってくれたホタル。ああ、それなのに、その後私達は心なく川の水を汚し、水辺をコンクリートで固め、ホタルの棲家を奪ってしまった。今、ホタルは何処に居るのか。棲家を追われ、落人の様にひっそりと暮らすホタル達を、神戸のあちこちに訪ねてみたい。そんな今、私達の近くにホタルの棲家を取り戻そうではないか。そして、夏の夜、ホタルと共に清らかな自然の恵みを楽しめる環境を取り戻したいと思う。
 そうだ! この「しあわせの村」にホタルの棲家を作ろう。そしてここでホタルと友達になろう。
ホタル、君は何が好きかな。君の好きなカワニナを、きれいな水の流れの中に沢山入れて上げよう。これを食べて、ここで育っておくれ。ここには桜の花びらも流れてくるけれども、君はいつ水から上がっていくのか?そしていつ眠り、いつ目覚め、そして明かりをともして、いつ飛び立つのか?
飛んでくれホタルよ、このしあわせの村に、ホタルよ飛んでくれ!

昔の人が言ったように、ホタルの光で本が読めるだろうか。これも確かめてみたい。そして、私達日本人が昔からホタルを友として生きてきた足跡も訪ねてみよう。歴史、文化、歌などに残るその足跡を。

そしてこれから先、このしあわせの村に、毎年生まれるホタルを大切に育てていけるように、子供たちに呼びかけていこう。このしあわせの村のホタルが、神戸のホタルのシンボルになってほしいものだ。



1.  背景
1)ホタルは、汚れた環境では生きられない虫です。今から50〜60年前までは、日本の各地でホタルが飛んでいました。
2)日本を取り巻く環境の悪化の結果、日本の各地からホタルが姿を消してしまいました。
3)ホタルが生きられる自然は、人間生活にとっても大切なものです。ホタルの生息は人間の安全な生活の「バロメーター」とも云えます。
4)さらに、「神戸市では昭和61年に、ホタルを通じて環境保全意識の高揚を図ろうとホタル保護・育成事業を開始いたしました。その後、昭和62年以降は幼虫の人工飼育の成功、幼虫放流場所での成虫の定着等に成果を上げ、平成元年度からは学校、自治会等の市民団体と協力し、学校での幼虫飼育や地域と一体となった 放流活動等に努めているところです。今後ともさらに多くの市民の皆さんに、この活動に参加していただき、ホタルを通じて環境保全活動の輪を全市的に広げていきたいと思います。」(*1)という神戸市の提案に共鳴した。
(そのホタルが減ってきた原因)
@1950年代頃から、経済の急速な発展と共に、急速に環境が汚染され始めました。数千年の間ゆっくりと時間をかけて形づくられてきた自然の生態系が、大きく崩れてきました。生態系の崩れが原因で、たくさんの生き物たちが餌や住む場所を失い、絶滅するものも少なくありません。
A農業も水田から乾田への事業の進展や、「殺虫剤」「除草剤」などの農薬散布が、ホタルのえさである「カワニナ」や「タニシ」などの生成物を絶滅させました。
Bまた、減反政策が荒地を生み、山あいや水田にいたホタルの住む場所を荒廃させてしまいました。
C加えて、私達のライフスタイルが環境を汚染し、水質を汚し、生き物の住めない状態まで環境を悪化させてしまいました。


2.  学習目的
 ホタルは、日本の夏の風物詩です。日本人の大好きな昆虫のひとつです。きれいな水、緑の植物、植物を育てる土がある自然豊かな水辺でしか育たない生物です。そこには、ホタルだけでなく、魚やとんぼ、水鳥などいろいろな種類の生き物が住んでいます。そうした環境保護のシンボル的昆虫であり、夢と謎の多い素敵なホタルを学習し、自然の生態系の回復に寄与していきたいと思います。さらに、神戸に住み暮らしていく自分達が自然との接点を発見し、ホタルと人間との歴史的文化的な繋がりをも解明したい。


3.  目標
1)しあわせの村の「日本庭園」にホタルを飛ばす。
2)毎年自然にホタルが飛ぶようにする。
3)子供達やその親達に自然学習の場を提供する。
4)日本の愛唱歌「ホタルの光」に出ているように「ホタルの光」で本が読めるか検証して、日本の心を知る。


(*1) 「ぼくもわたしもホタルとともだち」 表紙裏 笹山神戸市長  神戸市1991年3月発行