2章 ゲンジボタルの生態

2−1.ゲンジボタルの一生(ゲンジボタルの生態サイクル)

ゲンジボタルはどんな生活をするのでしょうか。その生活ぶりを追ってみましょう。

6月上旬、交尾を終えた親虫が、水面の近くの木の根や杭などに生えた苔の間に、500個から1000個の卵を産み付けます。卵の色は真珠色、大きさは直径0.5ミリ、小さな命の始まりです。 卵は次第に黒ずんできて、そして7月上旬、殻を破って幼虫が出てきて、滑り落ちたり歩いたりして水の中に入ります。その体長は1.5ミリ、見えないほどの小ささです。水の中では巻き貝のカワニナが、この幼虫のエサになります。小さい幼虫は小さいカワニナを、大きくなった幼虫は大きなカワニナを食べるのですが、その食べ方は、鋭い顎でカワニナの肉のところに噛みつき、口から中身を溶かす消化液を注入し、蓋の隙間に口から細い管を差し込んで、ジュースを吸うように溶けた中身をチューチューと飲むのです。幼虫は主に夜に活動し、昼間は川底の石の間に隠れて静かに休んでいます。

そして秋から冬を水の中で暮らし、6回の脱皮を繰り返しながら次第に大きくなって体長が2.5pほどになった幼虫は終齢幼虫と呼ばれます。10ヶ月で終齢幼虫になる早い成長のものと、成長が遅く春になっても未だあまり大きくなっていないものとがあります。遅いものは更にもう一年、水の中で暮らして大きくなります。

 春4月中頃、桜の花も散って暖かくなった雨の夜、終齢幼虫は上陸を始めます。水の中から這い上がり、雨で柔らかくなった土を掘って土中に潜り込み、土の中に自分の部屋を作り、体から粘液を出して体の回りの土の壁を固めます。そして体が次第に硬くなって蛹になるのです。始めは蛹の色は白いのですが、だんだん黒くなっていきます。上陸してから約40日後の5月下旬頃、土繭の中で蛹は脱皮して成虫になります。そしてまた雨の夜、土繭を破って雨で柔らかくなった土をかき分けて地上へと出てきます。

 黒い羽根と赤い肩のユニフォーム、黄緑色のティールランプを装備して離陸準備完了です。 夜8時頃になるとオスのホタルは群れをなして飛び始めます。光の明滅周期は西日本では2秒、東日本では4秒と言われています。群れ全体で明滅の周期を合わせて夜空に飛び交うのです。メスはあまり飛ばず、低い場所に止まってオスに光の明滅信号を送ります。メスを見付けたオスは、急降下してメスをとらえ、そして交尾します。ホタルの群れは、約一時間明滅しながら飛び交い、その後休息します。それから夜中の一時頃と明け方の4時頃にそれぞれ一時間づつ飛び交う様です。昼間は木の葉の裏などの目立たないところに止まって休息しています。

 ホタルの成虫は草の露などの水分を飲むだけで、他のエサは全く摂らず、羽化してから2週間程で命を終えると言われています。メスのホタルは交尾後4・5日して産卵し、その一生は終わります。ホタルの卵は淡く光を発しています。幼虫も少し光っています。蛹も光っています。彼らは一生光り続けている様ですが、詳しくはまた後で。

・「ホタル 光のひみつ」 栗林 慧 著 あかね書房  2004年3月発行



2−2 ゲンジボタルの生息環境を探る

さて、どんな環境がゲンジボタルにとって住みやすいのでしょうか。いろいろな文献を調べてみると、次のような条件が抽出されてきました。

(1) エサとなるカワニナがたくさんいること。

(2) 水質はあまり清冽でなく、適度の有機物を含み、雑排水の合成洗剤の濃度は低いこと。そして水質はややアルカリ性であること。

(3) 水流の速さは毎秒20p〜50p以下程度で、ヘドロの堆積が無く、溶存酸素量が低下しないこと。

(4) 川底は石や砂利で、幼虫が潜むところが十分にあること。(コンクリート面は不可。)

(5) 水流は安定的で渇水や鉄砲水が起こらないこと。

(6) 水の中にヒルやザリガニがいないこと。

(7) 水辺の石や木に苔が繁茂していること。

(8) 岸辺に植物がよく繁茂し、岸辺の土は柔らかく、保水力があり、土が極端に乾燥しないこと。

(9) 水辺の片側は斜面または崖状で樹木が高く茂り、対岸は開けた空間が広がっていること。(両岸とも崖状のときは、低い植物が生えた中州などがあること。)

(10) 夜間照明はなるべく少なく夜は暗いこと、できればホタルの飛ぶ間は消灯できること。

 こんな条件を満たす場所が、しあわせの村の中にあるのでしょうか。はい、あるのです。私達がカワニナを放流するだけで、この条件を満たす場所を、しあわせの村の「日本庭園」小池の近くに見付けることが出来ました。 そして私達は、この場所にホタルを飛ばす準備を進めたのです。

 (ホタルの保護・育成にかかる研修会 講演資料 「今給黎 靖夫」ホタルの保護と生態系 平成13年6月6日 より転記 )

2−3 ゲンジボタルの飼育

 昨今、日本全国各地においてホタルの里づくりや、飼育放流が行われ、ホタルが飛ぶ環境を取り戻す機運が各地で高まってきています。神戸でも西区の玉津西水環境センターや、北区の有馬小学校で、ホタルの飼育と放流が行われ、それぞれ成果を上げてきています。有馬小学校では、校庭内の池でホタルの餌となるカワニナを養殖しながら、校庭内に建てられたホタル観察小屋の中で幼虫を飼育し、毎年有馬川に放流し、今では川辺にホタルが乱舞する盛況を実現させています。我々ホタルの会は、これらの実例から学んで、しあわせの村の日本庭園でのホタルの放流を試みました。

ホタルを飼育するには、ホタルの生育に適した環境を整備して、なるべく自然にホタルが増殖するように気配りをすることが肝要でありますが、当日本庭園でそれがうまく実現できるかが最大の関心事となっています。

 我々ホタルの会のメンバーは、200461819日、富山県高岡市で開かれた「全国ホタル研究大会」に出席して、同地で行われているホタルの環境作りや飼育の実例を見学し、研究発表を聞いて学んだ飼育に関する事項は、@幼虫が育つ水環境は、そこに共存する生き物たちの食物連鎖のバランスが上手く保たれる必要があること。A幼虫が成育している水路では、水温、水流、河床の状態のいずれもが、幼虫とそこに共存している生き物に適した状態に保たれている必要があること。B水路の周辺にある植物群も、ホタルの成育と一連の生態系に重要な役割を果たしていること。Cホタルの幼虫が成育する過程では、生存率が非常に低い(10%以下〜3%)ので、幼虫の飼育は、かなり難しいこと。などでした。

これらの事柄を我々が今年のグループ学習として研究し実施して行こうとしても、半年や一年ではとても不可能なので、方策として既に我々が選んだ通り、カワニナとホタルの老熟幼虫を入手して、当日本庭園の水路に放流するのが時間的にもホタルのライフサイクルを始めさせるスタートとして、妥当と考えました。来年以降もここにホタルが成育して飛ぶのを期待して見守って行きたい。

以下、我々が見学してきたホタルの飼育状況の実例を写真でご紹介します。

また本会メンバーの古田氏も自宅の水槽で幼虫の飼育をしており、その写真を添付します。

有馬小学校 ホタル観察小屋

古田氏の水槽の写真